いまでこそ「フィレンツェ観光ガイド」としてルネサンスを紹介していますが、もともと日本美術史を勉強していました。
大学は2回行っています。1回目は京都大学で法学部を2000年に卒業。
2回目は社会人をしながら通信教育学部で日本美術史を勉強しました。2011年卒業、2012年には学芸員の資格を取得。
その時の卒論がこちら「日本絵画の異文化での効果的な展示解説方法ついての考察」
11歳〜18歳までをほとんどイギリスとアメリカで生活したので、大学で日本に帰国した時は日本美術が新鮮でした。
お茶のお稽古も8年続けて、お茶会でお手伝いもさせていただきました。
ルーブル美術館を見にパリを訪れる人はいても、東京国立博物館を見に日本を訪れる人はいない。
日本美術の魅力をもっと知ってもらいたい・・・そんな思いから書いたのがこの卒論。
本文は1万5千字を超す長文なので、要約をこちらに載せておきます。
日本絵画の異文化での効果的な展示解説方法ついての考察(要約)
日本絵画を海外で展示する場合、日本と同じように展示して鑑賞者に正しく日本絵画が伝わるのだろうか。この論文では、異文化で日本絵画を展示する際にどのような工夫が必要か、また解説にはどのような考慮が望ましいかということについて考察した。考察にあたって、海外の美術館で実際にどのように日本絵画が展示されているか、どのような解説がされているかを調査し、分析した。以下の3つの切り口で調査分析を行った。1.解説文についての調査、考察。2.展示方法、展示空間についての調査、考察。3.その他媒体を使っての解説および普及活動についての調査。
1. 解説文についての調査、考察。
海外の美術館での解説はどのような特徴があるか。実際に海外の美術館での解説を調査し、分析を行ったところ、大きく3つの特徴が見られた。まず、日本特有の絵画形態についての解説がされている。例えば絵巻について、日本では絵巻という絵画形態について解説が無くても十分に理解される。しかし、海外では絵巻についての知識がない。そのため、それを補う解説がされている。次に、日本の生活や文化についての解説が挙げられる。煎餅や餅といった日本では当たり前のものも、海外では解説の対象になる。特に鏡餅が墨一色で描かれた作品は、餅や鏡餅という知識がないと、何が描かれているのかもわからない可能性がある。それに加えて、「絵に描いた餅」などことわざを紹介することによって、作者がこめたウィットにまで鑑賞者を気づかせる工夫も見られた。日本文化を更に一歩踏み込んで紹介し、より深い鑑賞を手助けしている。最後に、日本特有の美意識を紹介することによって、海外の鑑賞者のより深い鑑賞方法に繋げている例を挙げた。喜多川歌麿の美人図で、浮世絵の美人画が全て似通った描かれ方をしているのは、浮世絵が当時は日本の画家や社会の理想美を描くことを求められたからであることが解説されている。その中でも鉤鼻など個人の特徴がわかるように描かれていることが解説され、鑑賞者が違いを探しより深い鑑賞ができる工夫がされていることがわかった。
2.展示方法、展示空間についての調査、考察。
展示方法や展示空間についての調査は大きく2つに分けられる。実際に展示しているスペースの調査と、展示する方法についての調査である。前者については、ロサンゼルスカウンティ美術館の日本館の例を取り上げた。ここではできるだけ床の間に近い状態の展示がされている。床の間と同じように作品を一点ずつ鑑賞することや、自然光でガラスケースなしで鑑賞できる工夫がされている。このような取り組みで、床の間という空間を知らない鑑賞者が実際に床の間で鑑賞するような体験をし、実際に近い形での鑑賞を可能にしている。後者の展示方法の調査からは、展示国との関連性を持たせての展示が有効であることと、絵画以外の作品を並べて展示することがよりリアリティをもって鑑賞者に伝わることがわかった。例えば日本絵画作品の中でも展示国の影響があるものを最初に展示することによって、海外の鑑賞者が親近感を抱くことにつながる。その後に日本独自色の強い作品を展示しても、よりスムーズに作品を受け入れられる。≪平治物語絵巻≫と大鎧や刀剣を並べて展示している例では、実際の大鎧や刀剣を並べて展示することで、絵巻に描かれている刀剣などが実際どのような大きさなのかといった鑑賞者の興味を引きだすことができる。また刀剣が当時どのように使われたのかを絵巻を見て理解することができる。
3.その他媒体を使っての解説および普及活動についての調査。
ここでは、新旧あわせてどのような媒体を使用して鑑賞者の日本絵画の理解に役立てているかを調査した。日本絵画の用語集や日本の歴史、美術史の年表が多く見られた。カタログなど紙媒体もあるが、ギメ東洋美術館のようにホームーページに記載し、作品へのリンクを貼ることによって、ただ用語を理解するだけでなく、作品への興味につなげている例が見られた。歴史についても、展示国と比較できるよう工夫することが鑑賞者の興味につながる。動画やフラッシュといった最新の技術を有効に使用している例も見られた。絵巻の扱いを動画で見せたり、フラッシュを使って草紙をめくったり絵巻を繰ったりということを可能にしている。美術館ではできないような鑑賞方法だが、実際に鑑賞されていた方法と近い状況を作ることによって、美術館の展示ではわからない作品の扱いについて理解を深めることに役立っている。
おわりに
解説文、展示方法や展示空間、そして他の媒体を使用した解説の調査を通して、以下の3つの共通点を見出した。異文化であるがために鑑賞者が知らない知識を補うこと。これには用語集や文化の紹介、そして絵巻の鑑賞方法の紹介がある。次に展示国との関連を持たせて展示することが挙げられる。展示国の作品と共通点のある作品を見せることにより興味と親近感を持ってもらうことや、展示国と日本の歴史が比較できるように考慮されていることがわかった。そして、よりリアリティを持たせることが重要である。例えば、フラッシュを使って実際にはできない絵巻のスクロールや、床の間により近い展示を可能にすることが挙げられる。異文化の鑑賞者の日本絵画の理解のため、このような工夫が日本でも適用されていることが望ましいと思う。
(2011年3月 加藤まり子筆)
コメント
[…] 教科書にも登場するほどの名画。もともと日本画を専攻していたので、これはどうしても見たい作品でした。日本画は性質上、長期間展示することができません。なかなかお目にかかれ […]