芸術家たちの自画像 絵に描き込まれた画家自身

 

 

 

映画「インフェルノ」でも使用されたヴァザーリの回廊画家の自画像が飾られるギャラリーである。特別予約が必要だが、メディチ家の大公たちやヒトラーが通った道であり(トム・ハンクスも)、この回廊が第二次世界大戦中にフィレンツェ解放への道となったと思いながら歩くと感慨深いものがある。

 

 

ヴェッキオ橋の上を通る空中回廊 約1.5km

 

 

ここにある自画像の大半は17世紀にメディチ家のレオポルド枢機卿が集めたもの。

しかし、もちろんだけどそれ以外の場所にも自画像は描かれている。壁画で使用されるフレスコで描かれた自画像など、ここでしか会えない画家たちもたくさんいるのだ。

ということで今回はフィレンツェで会える画家の自画像をまとめてみた。

 

 

 

序章:ルネサンス以前の話:中世の画家の多くは名前が残っていない

 

自画像が描かれ始めたのは15世紀から。中世(14世紀前半ごろまで)は神が中心の世界。絵も「画家」という独立した個人が描いているというより、神の力で描いているという認識。特に13世紀ごろまでの絵を見るとオリジナリティがない。というか出しちゃダメだった。絵は聖書の代わりであり(識字率が低かったので)、決められたパターンから逸脱しない絵が求められた。キリストもマリアも普通の人とは違う。そして聖人以外の人間は描かれなかった。画家の名前も記載がなく、どちらかというと職人扱い。「なんとかのマエストロ」という名前が付いているのは、名前がわからないから。

 

 

13世紀後半コッポ・ディ・マルコバルドの聖フランチェスコ。この時代同じような顔かたちの絵がたくさんある。

 

 

 

ビガッロのマエストロ作の聖母子像1320年ごろ。神の子と神の子の母、という認識なので偉大さが特徴。

 

 

 

初めて聖人以外の人間が登場する(フィレンツェの絵画)のがこの作品。ジョッティーノ「聖レミージョのピエタ」1360年。よく見ると光輪がない人が2人いる。この人たちは聖人ではない。依頼主の身内ですでに亡くなっており、彼女たちの供養のために描かれたと考えられている。

 

 

 

だから、西洋絵画において「人間」が描かれるのは1300年代後半以降。

ルネサンスとは「人間」が再び世界の中心に帰ってくる(ル=再び、ネサンス=生まれる)ことなんだけど、それはその前の中世は「人間」に焦点が置かれていなかったという背景があるから。

 

 

(2017/3/24)

 

 

第1章:ルネサンス初期:1401〜1460年代

  • ギベルティ

ルネサンスはいちおう1401年に開始したということになっている。もちろんこの日に「ルネサンス開始式典」があってヨーイドンでスタートしたわけではないのだけど、この年にルネサンスの幕開けになるような美術史では大きなコンクールがあった。

フィレンツェが誇るサンジョヴァンニ洗礼堂。

この北門を担当するデザインのコンクールが行われた。詳細は省くが、最終的には当時22歳くらいのギベルティが数々の経験者を抑えて優勝する(この辺の話は熱が入るので別記事にします)。

 

1403年、北門着手。

誇らしげに彼の肖像が北門に入っている。いわば今でいう国家プロジェクト。わずか24歳で任されるのは相当誇らしかったに違いない。私の知っている限り、芸術家の顔が登場するのはこれが最初。ターバンは15世紀の流行りのスタイル。

完成したのが1424年。ベルギーのブルージュではファンアイクがこっそり自分の姿を鏡に描いたのもこのちょい後。

ロンドンナショナルギャラリー所蔵「アルノルフィーニ夫妻」。鏡の上には「ヤン・ファンアイクここにあり」と記されている。なるほど、下の鏡の中にいるもんね。

北門の出来が良くて1425年、ギベルティはまた新しい門の注文を受ける。現在「天国の門」と呼ばれているあれだ。

ドゥオモ付属美術館にある本物。洗礼堂にあるのは複製。

 

1452年に完成したこちらの門。ギベルティは新鋭からフィレンツェの重鎮になっていた。

表情も雰囲気も(髪型も)変わったよね。

国際ゴシックからルネサンスの過渡期に生きたギベルティ。ちょうどこの頃、画家たちは自分の作品に自らを混じりこませるようになった。聖人だけでなく人間が描かれた結果のことだ。

 

続く・・・(2017/3/28)

 

  • マザッチョ

ギベルティが洗礼堂の北門で名声を得て「天国の門」の依頼を受けた頃、フィレンツェを横切るアルノ川の向こう側で一人の青年が礼拝堂の壁画に取り掛かっていた。

マザッチョである。

絵画の世界において初めてルネサンスを取り入れたと言われるマザッチョ。その後、数世紀に渡り画家たちに影響を与え続けた。

ルネサンスの重要な要素に「遠近法」というものがある。要するに二次元の世界に三次元を構成することである。それを最初にやってのけたのがマザッチョだ。

サンタ・マリア・デル・カルミネのブランカッチ礼拝堂にある「貢の銭」は線遠近法の傑作。

キリストを中心に放射状に広がっている。反対に言えば、視点はばらけずにキリストに集中する。これによって3D効果もだけどドラマチックさが生まれる。

そして背景も一点(キリストの後ろ)で奥行きが生まれる。

 

これがマザッチョと一緒にこの礼拝堂で描いていた先輩のマゾリーノだとこんな感じ。

中心はあるし、奥行き感ももちろんあるのだけど、この絵の向こうに消失点があるわけではない。ここがルネサンスの革命的絵画とその前の時代の違い。

 

そしてこの頃から画家が絵の中に入るにようになった。

こっち向いてる人がマザッチョこっそり絵の中の大勢のその他に混じっている。

そして右端の黒いスカーフを被った人はブルネレスキ。彼が線遠近法を発見してマザッチョに伝えたのだ。

 

この絵を見ながらこの教会で一人のやんちゃな少年が育った。

画僧、破戒僧(?)フィリッポ・リッピである。

彼についてはまた次回。乞うご期待。

聖人たちの間にこっそり混じってるのが彼。

(2017/4/26 加藤まり子筆)

  • フィリッポ・リッピ

  • ベノッツォ・ゴッツォリ

 

 

ルネサンス中期

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三大巨匠

マニエリスム

終章:バロック以降

 

 

 

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