国立西洋美術館「松方コレクション」-芸術の価値とは

国立西洋美術館の元となった「松方コレクション」

BS11で放送されたアートミステリー 国立西洋美術館誕生秘話を見ました。

国立西洋美術館は日本を代表する西洋美術のコレクションを誇ります。

(↑ロダン「考える人」と国立西洋美術館)

そのコレクションの基礎を築いたのが松方幸次郎です。
造船業で財を成した幸次郎は、日本の若い芸術家たちに本物の絵を見せてやりたい、という意志でコレクションを築きました。数年前に松方コレクション展が開催され、彼の功績が知られるようになりました。

(松方コレクションのひとつ、モネ「睡蓮」)

今回明らかになったのは、松方はそのコレクションを元に美術館を作ろうとしていたということです。「共楽美術館」という名前が考えられていました。その名の通り「共に楽しむ」美術館を目指していたことが伺えます。

子孫の方へのインタビューにもありましたが、松方は自分のためにコレクションを形成したのではなく、色々な人に芸術を鑑賞して欲しいという気持ちで美術作品を収集していました。

松方が買い集めた作品は、火災や戦争によって被害を受けます。イギリスの倉庫にあったものは火災の被害を受け、フランスにあったものは戦火を逃れるために疎開。疎開先の保管状態が良くなく、一部破損したものもあります。

(破損したモネ「睡蓮」の修復を再現した映像)

そして終戦後は敵国財産としてフランスに接収されてしまいました。しかし、専用の美術館を建設することを条件として松方コレクションの大半が日本に返還されることとなりました。そうやってできたのが国立西洋美術館です。松方が夢見た美術館ができたのです。

(↑ル・コルビュジエ設計の建物は世界遺産にも登録されています)

返還されたコレクションにはフランスも惜しむほどの作品が含まれています。
そして美術館開設以降もコレクションの充実に向けて、たくさんの作品が収集されました。
日本、そして世界に誇るコレクションを常設展で見ることができるのです。

(ルノワール「アルジェ風のパリの女たち」)

松方の想いに心を馳せながら常設展を鑑賞してみるのはいかがでしょうか?
(松方幸次郎の功績についての感想は最後の章に続きます)

常設展について

特別展のおまけとして入れるイメージの常設展ですが、上述の通り実は世界に誇るコレクションが展示されています。

特に特筆するべきは中世ゴシックからルネサンス、バロックのコレクションがあること。
日本ではこれらの時代のコレクションはこの美術館以外ではほとんどありません。

(↑アニメ「フランダースの犬」にも登場するルーベンスの作品)

そしてそれらが時系列およびテーマ別に展示されています。
・絵画がどのように変遷していったか
・どういったテーマの絵がどのように描かれてきたか
といったことを学ぶことができます。

このように体系立てて展示されているのも国立西洋美術館ならでは。

そしてもう一つの見どころが、冒頭で紹介した「松方コレクション」です。
モネやルノワール、マネなど松方が本場フランスで集めさせた作品が並びます。

これらを学んで一緒に鑑賞する「見学会」を開催します!

国立西洋美術館 常設展 見学会のご案内 4/15, 5/14

国立西洋美術館 常設展を通して西洋美術の歴史を学び、実際に見学します。
・4月はゴシック時代からロココ時代まで
・5月は印象派を中心に19世紀 美術
を見学します。

最初の1時間半は座学で学び、その後美術館に移動して1時間程度見学します。
座学はオンラインでも受講できます。

美術館見学付き☆国立西洋美術館常設展 解説 ゴシック〜18世紀まで / 加藤 まり子
プロのガイドが教える美術講座!世界でも注目される国立西洋美術館のコレクションの中からゴシック〜18世紀までの作品を解説します。

4/15 13:00〜 ゴシック時代から18世紀まで

西洋美術の基礎中の基礎となる中世ゴシック時代から18世紀ロココ様式を取り上げます。

ヨーロッパではルネサンス時代からバロック時代が美術史でよく取り上げられます。
しかし、日本で18世紀までの西洋美術を見られるのは国立西洋美術館以外ではほんのわずかです。
美術史において重要な時代をしっかり学ぶことができます。

取り扱う時代と内容

  • 14世紀:ゴシック時代
  • 15〜16世紀:ルネサンス時代
    • ティツィアーノ
    • クラナッハほか
  • 17世紀:バロック時代
    • ルーベンス
    • フェルメールほか
  • 18世紀:ロココ時代
    • 雅宴画
    • ヴェドゥータ
    • カペ(女性アカデミー会員)

5/14 13:00〜 印象派を中心に…19世紀美術史を辿る

19世紀は美術史で大きな転換期になります。それまで100年単位で変遷していた様式が数十年単位で変わるようになりました。

その中でも印象派の登場は、ルネサンス以降400年続いた美術の傾向を打ち砕くものでした。その背景には美術史においてはロマン主義や写実主義、バルビゾン派など新しい潮流の影響があります。

19世紀は社会的にも大きな変化があった時代です。フランス革命に始まったヨーロッパでの民主化の動き、イギリスで始まった産業革命も19世紀に入り発展を遂げました。それに伴い科学が発達、機械化による大量生産大量消費の社会が生まれました。また鉄道や蒸気船の登場により交通や都市生活も大きく変化した時代です。

こういった社会面(物理的要素)、政治面(哲学的要素)がどのように美術に影響を及ぼしたか、常設展を見ながら学んでいきます。

取り扱う時代と内容

  • ロマン主義
    • ドラクロワ
  • バルビゾン派
    • ミレー
    • コロー
  • 写実主義
    • クールベ
  • 印象派
    • モネ
    • ルノワール
  • ポスト印象派
    • ゴッホ
    • ゴーギャン
  • 象徴主義
    • モロー
    • ロダン

芸術の価値〜松方の意志を継いで

今回の番組で印象に残ったのは、松方幸次郎は自分のためではなく美術作品を集めたということ。
 若い芸術家に本物の美術を見せてやりたい、
 美術館を作ってたくさんの人に美術を鑑賞してほしい、
莫大な金額を投じましたがそれはひとえに他人の喜びのためだったのです。

バブル時代、企業はたくさんの美術作品を買い求めました。
しかし、動機となったのは芸術的価値より経済的価値の追求の方が多かったように見えます。

私たちはことあるごとに何かを「得よう」としたり「お得」になるように動くと思います。
しかし、松方コレクションは見返りを求めずに形成されました。

資本主義が発達した社会では、経済的に価値のあるものに重きが置かれます。
しかし、芸術は本来人の心に触れるものです。
作品には値段がつきますが、そこから人が感じることについては価値は無限大。
そしてそれは世代も時代も超えて引き継がれるものです。

次の世代に芸術作品を残したい…
松方はじめ無償の精神で文化芸術を守ってきた人たちに倣って、美術の価値を伝えていきたいと思います。

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